チンパンジーのマッチングアプリ【短小説】
「プイプイ」
友達でありチンパンジーの桜は、黒い指で器用にチンパンジー用のスマートフォンを操作する。
桜の指がせわしく右に左に動くたび、画面上のチンパンジーの顔写真が右に左に消えてゆく。
多様性という言葉がもう陳腐なほど当たり前になった世界で、私は高校生に上がってから初めてチンパンジーと同じクラスになった。
チンパンジーと人の住居を分けて垣根を持つのは差別だと騒いだ活動家が世界を変えたのだった。
ひとクラス約15人と10匹でババ抜きみたいにランダムに構成された1年5組で、私はチンパンジーの桜と意外にも意気投合し、毎日一緒に登校していた。
「いい男いた?」
「プイ…。」
桜は最近チンパンジーの彼氏を探していて、チンパンジー用のマッチングアプリに熱を上げている。
「どれ、見せて。」
写真の下には名前、年齢、住んでいる都道府県が書かれている。
その下にはプロフィールがあって、趣味や仕事、恋愛の価値観なんかが書かれている。
ユーザーは気に入ったら写真を右にスワイプし、相手とマッチする。気に入らなかったら左にスワイプしてさようなら。
タツヤ 16 東京
趣味はアウトドア。1年に1回はジャングルで木登りしてます!
桜は左にスワイプする。(さようなら)
ユウキ 20 東京
趣味は毛づくろい!彼女ができたらたくさん毛づくろうタイプです笑
桜は左にスワイプする。(さようなら)
タカ 21 東京
趣味はサバイバルです。家ではバナナばっかり食べてます←
「キャーー!!」
桜は叫んで右にスワイプする。
スマホ上にマッチしました!と大げさなピンクの文字とチンパンジー2匹の写真が映し出される。
「うーん、違いが分からん。」
桜は至って真剣である。
桜はスマホを操作して文字を打ち込む。
桜のスマホは桜の入力した文字を日本語に変換して、読み上げ音声を出力する。
「い、い、い、お、す、、い、た」
私にとって桜の意思を伝える声はこの無機質な機械音声だ。
「最後の人、どこがよかったの?」
桜がスマホに文字を打ち込む。
「か」
「お」
桜は日本語が分かるので私の言葉をチンパンジー語に翻訳する必要はない。
「桜は付き合ったらどんなデートしたいの?」
桜が少し考えてまたスマホに指を滑らせる。
「か」
「か?」
「かふ」
「ぇ。」
「カフェめぐり」
…………。
桜は歯を見せて笑った。
教室に着いたら桜は、人間用の椅子に座りにくそうに座った。
桜は人間の大学を出てジャングルに病院を作りたいらしい。
授業に聞き入る桜の横で、私は机の下にスマホを隠しながら人間用のマッチングアプリを起動した。
チンパンジーのモデルを起用した「反省代行サービス」のバナー広告が現れて、小さな✕ボタンでそっと消す。
笑顔の人間。
タクヤ 20 東京
趣味はあんまないです!基本家でネトフリ見てます笑
左スワイプ。
真顔の人間。
ゆきと 25 東京
趣味はキャンプです!月に1回はキャンプしてます!
左スワイプ。
集合写真の人間。
ユウキ 21 東京
趣味はカフェです!彼女ができたら一緒にカフェめぐりしたいです!
右スワイプ。
マッチしました!の文字と顔写真がスマホに大きく映し出される。
桜がこっちを見ている。
「プイ…」
「プイプイ?」
桜の言葉だけは翻訳アプリを介さなくてもたまに分かる。
「か」
「お」
隙間を這いまわるタイミーワーカー、はじめての、忠(チュウ)
最近タイミーにはまっている。
タイミーとは単発バイトの情報がたくさん掲載されているアプリで、人手が足りないお店とほんの少しだけ働きたい労働者をマッチングするサービスである。
タイミーはその日限りの労働なので、長期的な人間関係を築くのがしんどい人間にも向いている。
タイミーで知り合った人々は
・初対面なので踏み込んだことを聞いてこない
・基本人手不足なのでたくさん褒めて長期契約を求めてくる(承認欲求が満たされる)
人間関係のトロの部分を味わえると思っている。
あと、職場ごとに環境が変わるので飽きっぽい自分にはそこも良い。
そんなこんなでもう10回以上タイミーで働いている。
最初は「ビギナー」だった労働者ランクも「エース」に昇格し、ピカピカの「洗い場バッチ」なるものが付与された。
(経験した職種や回数に応じてステータスが付与される仕組みがある)
洗い場バッチを貰ってから、ミシュラン星付きの店にもマッチングできるようになり、それもそれで珍しい経験が出来て面白い。
Twitterで、「タイミーは呼べば低賃金ですぐ来ると思われている舐められた労働者」と言っている人がいたが、そんなに悲観しなくてもいいと思う。
あえて卑屈な見方をすれば、別に労働者はみんな舐められてるし搾取されていると思う。だけどタイミーでの労働は、気持ちや魂まで搾取されたりしないから好きだ。
ところで、タイミーのアプリのロゴは、黄色いネズミのキャラクターが描かれているのだが

これを私は、
単発バイト=スキマ時間のバイト=スキマを這うネズミのような労働者
というタイミー側のメッセージと受け取っている。
新宿の水路を這いまわる大きなネズミ
飲食店の冷蔵庫の下で食べ残しを食べる黒いネズミ
それは隙間(時間)(不足人員)を見つけて労働する私の姿に似ている。
そんな風に卑屈になっても、うまいまかないをたらふく食べさせてくれて、私の働きをほめてくれて、もっと来てくれと頼んでくれる。
人間関係で深いダメージを負った自分には、タイミーのそういう労働がありがたくてしょうがない。
たとえ低賃金でも搾取でも鳴くよ。
はじめての、忠(チュウ)、きみと忠(チュウ)・・・
なぜか優しい気持ちでいっぱいだからだ。
はやく君の食べ残しも下さい。
いつか、手に負えない害獣になって見せます。
蝉しぐれみたいなおしっこが出たのよ
冬の始まりだった。
絶望的な冬の始まりだった。
私は仕事を辞めてもう5か月がたっていた。
体調が回復する見込みはなかった。相変わらず何もできないままだった。
昼過ぎに起きて、翌日の朝方まで泣きながら同じ色のプレートをそろえて消すスマホゲームをやりながら過ごした。頭の中は死ぬことばかりだ。
ジョワジョワジョワジョワジーーーーーーー
両親からの「はやく就職しなさい」の連絡は既読をつけないように慎重にトークを非表示にした。
ジョワジョワジョワ・・・
冷たい便座を減ってく貯金であっためて、
シーーーーーーーーーーーーーーー
お母さんお父さん
先輩先生上司聞いて
私、
蝉しぐれみたいなおしっこが出たのよ
☆11/30(土)作ったもの

解釈をやめて
お気に入りの納豆は何ですか?
78円のプライベートブランドの納豆とお気に入りの112円の納豆が売り場にあったらどちらを買いますか?
私は78円のやつを買うと思います。
今日眠ったら死んでしまったらどうしよう。
私の営みや創作、評価されながら評価されないながら、スルーされながら、死んで、腐って、燃やされて、あの子は幸せだったとか不幸せだったとか、死んだあと他人に勝手に物語にされるのが怖い。
私の物語なんて誰にも知るわけがないのに。
解釈をやめて。解釈をやめて。解釈をやめて。
きもい身体のままきもさをきもさのままきもがるのって難しい
非合理でなんかもやもやする美しい私を作っていたい。
それすら何もなく死んでいくんだろうか。
怖い。さみしい。
☆10/13(日)本日作ったもの

保護欲よ宇宙へ飛んでいけ
こんんばんは、TrEEです。
最近よく見るアプリゲームの広告。
女性が結婚相手に裏切られて別れ、3歳くらいの女の子と幼児を連れてホームレス状態になる。季節は真冬で、吹雪に凍える女性と子供にパズルをプレイすることで温かい家を提供するゲーム。
似たもので、ボロボロの恰好の女性にシャワーを浴びせたり髪を切って身なりを整えさせデートを成功させるというものもある。
こういう「可哀想な思いをしている人を助けたい」という保護欲はいったいどこから生まれるのだろう。
貧乏な女性に対しては、政府の制度とか実家とか頼りなよと思うし、女性の恰好をきれいにするのだって、プレイヤーの価値観がその女性や意中の男性に当てはまるとも限らないのに、傲慢だなと思う。
その場がしのげたって、その女性が今後自立できるとも限らない。
かくいう私も、昔付き合っていたひとに、お前は病気だから病院いけとか、お前をまともに戻したいとか言われて、逆切れしたらお前を思って言ってんだとよく怒られた。
助けられたいなんて1ミリも思っていないのに。
もし私に、助けられたい気持ちが生まれたとき、アプリゲームみたいに助けたい人と需要と供給が奇跡の一致をして、優しさが単なる暴力にならない世界が来るのだろうか。
それまで、生まれ直しは大丈夫です。
☆10/12(土)作ったもの

遺書を人生で何枚書くのだろう
遺書
って書いたことありますか?
私はあります。
とにかく死にたい気持ちに追いかけられるような人生なので、死ぬつもりで書いてみたり、死ぬ準備をすると死にたい気持ちがマシになると気づいてからはどうにか死なないように遺書を書いたりもした。
自分が美大を卒業するときの卒業制作は「自分自身の生前葬」で、作品説明として遺書を書いた。

昨日「ゆいごん川柳」という川柳の公募を見つけて、遺言ならまかせろと応募してみた。
応募したあとに気づいたのだが、前回、前々回の入賞者は60~70代ばかりだ。それはそうか。
20代でも毎日、誰のためにでもなく遺言を残す
焦りは募っていく
ゆいごん川柳
・まだ生きた 別名で保存 【最終版】遺言_fix0203更新.xlsx
・どうぶつの便せん お前たちはまだ生きてゆくのだぞ
☆10/10(木)本日作ったもの

